IGLOO DIARY

kadotani

「腐ってくテレパシーズ 角谷インタビュー」

 角谷について、「日本のパンクの典型的な魂」という言葉を聞いた。この言葉には問題があるが、彼がこの現代の日本でいわゆるパンクをやるといういささか奇妙なこころみの真面目な負の曲率の極致だということは確かだろう。彼の下宿を訪ねて行くと、そこは表から見ると何気ないアパートだったが、中に入ると、30近くはあると思われる部屋がいびつな空間を形作り、廊下と階段は奇妙な方向を向いていた。そこは江戸川乱歩の小説の舞台を思わせる一方、何故か未来的な感じをおこさせた。ふと目についたある部屋のドアには次のような張り紙があった。
●新聞勧誘、セールスマンお断り。第一、新聞など読むことが出来ません。
(この腐っていくテレパシーズ・インタビューは、角谷がお目当のテープをかけようとするのだが、どうしてもワーグナーがかかってしまうところからはじまる)

角谷(K):あれ、おかしいな、このテープちょっとおかしいぞ。やっぱりおこりはじめたかなあ。物質の反乱。こういうのって共振みたいにして、緊張してて会話なんかを上手くやろうとするとおきるみたい。
X・BOY(X):物との間に。
K:そう、物と対応するわけ。本なんかの場合もあって、偶然開けた本の中に、あまりにも自分が問題にしていることが書いてあったりするわけ。
X:それはC・ウィルソンも、「オカルト」を書いている間に何度もそういう、「暗号」があったって書いているね。それが単なる妄想だったらわりと簡単なことなんだけど...。ボクも、ものすごく緊張して女の娘と公園を歩いていたら、むこうから来た子供連れの家庭の主婦が、突然、「証拠を見つけたぞ」って喋ったのが聞こえてきたことがあるよ。それは女の娘も聞いているの。
K:(角谷の『僕ら糞ったれキリスト』のテープを聞きながら)そんなふうにして、ボクの波動の影響を他人が受けるわけ。だから、もうしかたがないから、どんどんかけていくわけ。
X:ははは、それはスゴイ。
K:それは正常な考えでやるわけだけど、ただ同時に、それが荒廃してきたら自分で制御できないわけ。エロティシズムの領域になってくるから。
X:はは、でもそれは他人も感じるわけ。たとえばさ、自分だけが...
K:みんな知ってる。
X:ああ、他人も知ってるわけか。それは気付いてなくてもいいわけ。
K:気付いていない人は一発で気付く。それはやっぱり困るわけよ。おかしい。腐っている。
X:物との関係ではそういうのないの。
K:ヴィアンの「心臓抜き」読んだ?
X:いや、読んでない。
K:閉鎖しているから、何もおきないから物の配列だけで変えていこうとするんだろうけど、それがなけりゃアナーキズムのような政治形態や宗教形態になるわけ。
X:閉鎖しているから並びかえるっていうのは、全てがこちらを向いているから並びかえて外部におけるっていうか...閉鎖している状態っていうのは、あまりに並び方が秩序正しいから、自分の配列でもないし、他人の配列でもないし...。
K:でも、秩序正しいのもいいと思う。気持いいしさ。ところが、中年のだささとかにくたらしさとか糞ったれが浮き上ってくるとファシズムになるわけ。だけど、宗教の模型性(?)ていうのがあまりにきつすぎて、俺は宗教には行けなかったわけ。だから、「糞ったれキリスト」。自分自身にそのような妄想があるから。
X:だから、キャンディーズのように、「もう普通になりたい」
K:そう、そういう俗っぽいような、地獄のようなところもあるのね。問題はもう分かっているんだけど、動けないんだ。全てを止めて外国に行くか、山にこもるか、「夜のはての旅」のようになしくずしになっていくか。
X:ヒュー(元『アーント・サリー』)とバンドをやる話があるって聞いたけど。
K:それはやりたいと思っている。ヒューってすごく覚めてて頭いいしさ。
X:クールなの。
K:したたか。さっぱりしている。

X:静かな曲はやる気ないの。
K:やる気ある。コードも弾かないような。上手くいえないけど。
X:呼吸とからめたような即興形式はあまり考えない。
K:そういうのはあまりない。むしろイコン。
X:ああ、ヨーロッパ的なんだ。
K:それとアフリカ的なのと。
X:ロックのルーツみたいなところね。
K:そう、やっぱりロックを選びたい。それから逆のところではグルジェフのような。
X:ロバート・フリップは聞いた?
K:昨日聞いたけど、あまり面白くなかった。次のが気になる。
X:でも、日本の場合、ああいう意識的な作り方っていうのはあまりないんじゃないの。
K:ない。(無調的な音階を単音で弾いていく)だめだなあ、いざやると。ポップ・ストック!ポップ・ストック!
X:何?それ。
K:そういうのがあるんですよ。自分にはポップのストックがいっぱいあるっていうのが。
X:資本主義みたいだね。ポップ資本主義。
K:あ、でもね。結局、ロシアの方がバラ十字のエーテル的なエロティシズムみたいなのが強いという気が最近している。冷えてて、空間的で、無駄がない。ただ、ロシア人ていうのは太っているけど。よく、ロシアの一家庭のイメージが浮ぶわけ。オフォーツクなんかの。
X:ドストエフスキーなんて興味ないの。
K:あるけど今さらって感じもあるし...。
X:そんなこと絶対ないよ。
K:それに、いい本屋がないから。旭屋書店なんて本当にひどいし。
X:どんな本屋が好きなの。
K:昔風の悲しい本屋。ヒューの影響だけど。...................会話形式になってしまうというか、他者との関係において倫理の封印がどうしても解けない。
X:どういうの、それ。
K:ボクの中の自尊心みたいなのが、究極におもむこうとした時、「結局、オレのいうことは面白くない」って感じになってしまう。
X:そういうのって、オレもよくあるよ。何かいおうとして、「もういいや」っていってしまうの。結局への思考が行為をどもらせるわけよ。
K:サービス精神。その反対が民族的なアストラル体的な、感情のみの...そういうのってバカげているんだ。本当にバカバカしいよ。
X:民族的な血でつながっているかのような?
K:他者の一人一人の問題が、抱えていることとか、いる状態が見えるわけ。
X:その時、まったく分からないやつがいたらすごいだろう?
K:ネガティブなグルみたいな奴。
X:毎日くらしてたって、たいてい分かってしまうわけだろう。サラリーマンにしろウェイトレスにしろ。まったく予想外の動きをする奴なんていないわけだろう。
K:しないからさ、ウェイトレスなんか感情的な目配せなんかできたりするわけよ。だからオレはまた緊張してしまう。「早く出ろ」とかさ。
X:だけどさ、そういう目配せにしたってだいたいの意味は分かるじゃない。「こいつはむさ苦しい奴だ」とかさ。
K:違うんだ、違うんだ。だって、サラリーマンなんかさ、すごく俺に共感を持ってくるんだ。体にさわってくるんだもの。悲しそうにして。
X:それはすごい。恐ろしい。
K:恐ろしいよ。
X:親しみを感じるわけかな。
K:バカなんだ。TVとかラジオなんかで、自分の今の状態をやさしさのヒーローみたいにしてやってたりさ、それが瞬間に遍在的におきちゃう。
X:糞ったれキリストだね。
K:キリストってすごく自己顕示欲の強い奴だと思わない。やさしいんだけど、ドラマにあこがれているわけ、スターなんだよ。
X:エロティックだけどね。
K:ホモセクシュアルの極致。そのへんからロゴスとか出てくるんだけど、あ、ロシアは逆ギリシャなんだ。エーテル体においてギリシャ的な形態をすごく持っている。それからバロックの空間意識。それがさ、ギリシャは暖かいのに較べて、逆に冷えているんだ。
X:そういうのを信仰してしまうとどうなるんだろう。
K:そうね、結局、最先端は銃口だろうな。
X:日本の場合は何だろう。何もないのかな。昔、「JAM」の編集部にいた、八木さんなんかは、「バラのベッドに菊枕」なんていっているけど。
K:日本の場合はありすぎて、いろんなイメージやメディアや物質の表面をどんどん贖罪にしたり消化しているのだと思う。それが一つの誇りになっているのだと思う。
X:国家精神があらゆるものを象徴化してしまうのかな。
K:ちょっとドグマチックだけど、民の卑俗さがそれを最先端におし出していて、それが骨格を作るのに必要なんだ。残酷だけど、地球は今、そのような隣人愛的な闇に閉されているのを感じるよ。笠井(叡)さんは単にそういう霊界の事実を翻訳したにすぎない。でも、自分が王になるっていうのはどう思う。
X:うーん、ちょっと分かんないな。
K:ああ、バカバカしい。
X:自分をコントロールできないっていうか、ある確信なんかが閃いても、現実的な場面でそれを生きるほど強くはなれないっていうのは感じるけど。
K:自分の回路を開き切れないし、むしろそのやらないってところが誇りになっているから...。いろんな人の失敗が分かるだろう。シュタイナーのなしえなかったこととか、ユングのとかさ。そういうのを考えると、何おできなくなっちゃうというか、畏敬の念がなくなってしまう。
X:だから、それはさ、ある種のないものねだりだと思うけどさ、たとえばひどく抽象的になるけど、永遠なんていうものを信仰できれば、失敗にも納得があるわけでしょう。ところが、永遠は信じられないし、かといって社会の中のサラリーマン的な価値を問題にしているわけでもないから。
K:そこのところから冗談と本質のフラギリティが出てくる。最近のパンクを聞いていると、そういう問題がいっぱい出てきている。「ヘブン」とか「スージー&バンシーズ」とか。
X:飯くいに行こうか。
K:うん。


(二人で出かけた食堂はジャパニーズ・キッチュの極致といったところ。カラオケのテープを置いてあり、私小説文学で頭を腐らせたという感じの店主は、『どちらでもいいじゃないか』主義者にちがいない。ガラス窓ごしにストーンしたかのような中年の主婦やきらびやかな八百屋の店先を見ながら、角谷は話をしてくれた)
K:この店、変な外人がくるよ。注文した後、よく歌を唱いだすの。この間なんか、そいつ路上につっ立って、ぶつぶついいながら自動販売機を見つめていた。
  この間、井の頭公園でホモのオマワリに尋問されてキモチ悪かったよ。
X:えっ、ホモのオマワリ。荒々しい感じじゃなくて?オカマっぽいの。
K:そう、オカマっぽいの。でも、でっかくてさ。暗がりから懐中電燈でこっちを照らしながら近づいてくるの。
X:待ちぶせしてたのかなあ。
K:それで駅までついてくるの。急いで電車に飛び乗って振り切ったよ。
X:よくそういうのに会うね。
K:このあたりも変なの多いよ。この間なんか、近所の鉄鋼所でワーグナーを大音響でかけていた。


(食事の後、新宿に出て、喫茶店に入る。注文をするとすぐ、隣のテーブルにコンパ帰りらしき大学生の一団がなだれ込んで来る)
「てめえうるさいよこの野郎。」
K:喧嘩だ。喧嘩だ。糞ったれ。気どりやがって、糞。
X:どんなコンサートをやりたい。
K:この間は、緊張して前に出れなくて、かえってそういうところがうけちゃったけど。
X:角谷はどちらかというと、毅然とやりたい方じゃないの。
K:毅然というか、めちゃくちゃ踊り狂ってやりたいけどね。それから、マースみたいに割れたサングラスに黄色い光をつけるとかさ。原始時代の棍棒があるじゃない。
X:えっ?
K:石の棒で先が太くなっていてギザギザがいっぱいついたやつ。あんなので頭蓋骨をボクッとかガキッとか殴っていくわけ。ちょっと前に考えていたのは、握りがゴムの赤いハンマーとかね。
X:山手線の電車の中で、懐から突然カナズチを取りだして、隣に坐ってた奴の頭をぶんなぐって殺した奴がいたけどね。
K:だから、よっぽど腹がたってたんだよ。
「人間は人間なんだよ、お前な」
X:原始人みたい。
K:だけど、原始人はあんなに喋らないよ。東京の奴ってさ、結局、恥を内側に持ってて、いきがって喋っている。
  バンドでやりたいのは痙レン。それに、粒子的な音のいらいらしたロックンロール。
X:粒子的って?
K:原子のドアを開いてね......うーん、開くっていうのはあまり好きじゃなくて、むしろ閉鎖した内側での電気の放電。
「人間なんていうのはな、学年じゃないんだ。人間性なんだよ。」
K:気狂い。臭い。

(喫茶店を出た後、ピカデリーで『さらば青春の光』を見、再び下宿に帰ってくる)
K:ここはいろんな音が入るんだ。TVとか自衛隊の無線とかね。すごい時には、自衛隊のヘリからのやつが五分おきに入ってくるの。信じられないくらいすごく飛んでいるよ。
X:西武池袋線の江古田駅の踏み切りのわきにビデオ・テレビがあってね。そこの二階にカラオケ・スナックがあって、客が歌っているところをビデオで表に映しだしているわけなんだけど、夕方時のまだ何もやっていないんだけどスイッチだけは入っている時の画面がとてもきれいなんだ。様々な色の粒子が飛びかっていて、それが電車がわきを通るたびに変化をおこすんだ。
K:俺の場合は、そんな音の粒子をキャッチして、それをどんどんミックスダウンしていくわけ。
X:J・ケージのパフォーマンスにそんなのがあるけど、あれは他人のやっているのを聞くより、自分でやった方がずっと面白いね。
K:低周波っぽい音になっていくみたい。
X:低周波といえば、あの装置をはじめて作ったやつが、どんな効果があるのか実験したら、内臓破裂かなんかで、あっという間に実験台になったやつは死んじゃったらしいね。
K:ひでえ話だ。
(文責・隅田川乱一)


●ズルイロボット
 ボクはズルイロボット
 ボクはズルイロボット
 ボクはズルイ素質が充分だから
 ズルイロボットになりたい
 ズルイ人間のズルイ精子がズルイ仲間を追いこして ボクができた

 ボクの中でズルガシコイ光が炸裂する ボクはズルイロボットになりたい カガヤクマーケットの中でカガヤクツメタイズルイロボットに 人間を追いこして
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 ・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・
 ボクはズルイ

●便所
 みんなが彼のことを便所って呼ぶぜ
 疑似感情
 彼は便所でハーケンクロイツと菊の御紋章がつがっているのを見た
 疑似感情
 彼、腐ったガーゼみたいに生きるのさ 彼には何もかもそれですんじゃうのさ
 疑似感情
 彼には自殺なんて思いもつかないのか 彼は光の便所に入ってったのさ 壁に一列に並ばされて
 彼の一生は仲間と小便すること

●銀の幼稚園
 ぼろぼろの銀の幼稚園に入園する
 オレたちの中の犬
 ふにゃふにゃした生物のヘルニアが俺たちを慰め隠す

 俺のふるいふるい地下の貯水槽

 体がだるい
 不安にかられて習慣の眠りにおちる 俺自身の深いかかわりが眠りこける 子供はマスターべションに夢中で 親指を吸い爪を噛み お寝小をする
 俺は解放されたかった
 銀の幼稚園で

【"Xmagazine JAM 特別ゲリラ号"より】


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